「何のために働く?」への答え:中小企業の働きがいを高める目的・ビジョン共有術
「何のために働く?」への答え:中小企業の働きがいを高める目的・ビジョン共有術
働きがい向上に取り組む中小企業経営者の皆様、日々の経営お疲れ様です。社員のモチベーション維持やチーム連携強化に課題を感じていらっしゃるかもしれません。働きがいを高める様々な施策を検討する中で、「現場の抵抗や無関心に直面し、どう進めて良いか分からない」といった悩みを抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は、どんなに素晴らしい施策も、その根底にある「何のために会社は存在し、私たちは何を目指しているのか」という問いへの答えが不明確では、社員の心に響きにくく、主体的な行動を引き出すことは難しいものです。
本記事では、働きがい向上においてなぜ「目的・ビジョン」の共有が不可欠なのか、そして中小企業でそれをどのように作成し、社員に浸透させ、効果を測っていくのか、具体的なステップを解説いたします。
なぜ今、「目的・ビジョン共有」が働きがい向上に不可欠なのか
多くの社員は、単に給与を得るためだけでなく、「何かしらの貢献をしたい」「自分の仕事に意味を見出したい」と考えています。特に若い世代を中心に、働くことを通じて自己成長や社会への貢献を求める傾向が強まっています。
企業の目的やビジョンが明確に共有されていると、社員は自身の業務がその大きな目的にどのように繋がっているのかを理解しやすくなります。これにより、単なる作業ではなく、意味のある活動として仕事に取り組む意識が高まり、以下の効果が期待できます。
- 主体性とエンゲージメントの向上: 自分の仕事の意義を理解することで、「やらされ感」が減り、自律的に考え行動するようになります。
- 一体感と連携の強化: 共通の目的に向かっているという感覚が、部門間や個人間の壁を低くし、チームワークを高めます。
- 困難への対応力向上: 困難な状況に直面しても、目的達成という揺るぎない軸があれば、前向きに乗り越える力が生まれます。
- 採用・定着率の改善: 企業の「志」に共感する人材が集まりやすくなり、入社後のミスマッチも減らせます。
特に中小企業においては、経営者の想いや創業の経緯が、そのまま企業の「目的」や「ビジョン」の源泉となっていることがよくあります。しかし、それが言語化されず、日々の忙しさの中で社員に十分に伝えきれていないケースも見受けられます。経営者の情熱を形にし、共有することが、働きがい向上の強力な土台となるのです。
中小企業経営者のための目的・ビジョン作成・見直しのステップ
もし自社の目的やビジョンが曖昧だと感じる場合、あるいは既に存在するが社員に浸透していないと感じる場合は、以下のステップで作成・見直しを検討してみてください。
ステップ1:自社の「存在意義」を深く問い直す
- なぜ、私たちはこの事業を始めたのか? 創業時の想いや原点を振り返ります。
- 私たちは、誰に、どのような価値を提供しているのか? 顧客や社会に対する貢献を考えます。
- 私たちは、将来どのような会社になっていたいのか? 数年後、数十年後の理想像を描きます。
- 社員やパートナーにとって、私たちはどのような存在でありたいか? 関わる人々との関係性を定義します。
これらの問いについて、経営者だけでなく、創業メンバーや古くからの社員、可能であれば若手社員の意見も聞いてみると良いでしょう。多様な視点を取り入れることで、より多角的で共感を呼びやすいものになります。
ステップ2:社員の「声」を聴き、共感を呼ぶ言葉に紡ぐ
目的やビジョンは、経営者だけが納得するものであっては意味がありません。社員が「自分ごと」として捉えられる言葉で表現することが重要です。
- 社員へのヒアリングやアンケート: 「会社の良いところ、改善してほしいところ」「将来、会社がどうなってほしいか」「どんな時に仕事のやりがいを感じるか」などを尋ねてみましょう。
- ワークショップの実施: 少人数で目的やビジョンについて話し合う場を設けることも有効です。社員自身が言葉を紡ぐプロセスに参加することで、当事者意識が高まります。
- 平易で、前向きな言葉を選ぶ: 難解な専門用語は避け、誰にでも理解できる、ポジティブな表現を心がけましょう。「〜しない」といった否定的な表現よりも、「〜を目指す」「〜を大切にする」といった肯定的な表現が響きやすいです。
例えば、「最高品質のソフトウェアを提供し、顧客のビジネスを成功に導く」という目的の場合、これをより具体的な言葉で「お客様の『困った』をITの力で『良かった!』に変え、共に成長し続けるパートナーでありたい」のように表現すると、より働くイメージが湧きやすくなります。
ステップ3:抽象的すぎず、具体的すぎず、バランスを取る
目的・ビジョンは、日々の業務の指針となるものであり、かつ、社員一人ひとりの行動を束縛するものであってはなりません。
- 抽象的すぎる場合: どこに向かっているのかが不明確になり、社員は「自分には関係ない」と感じてしまいます。「顧客満足度向上」だけでは漠然としています。
- 具体的すぎる場合: 細かすぎると、変化への対応が難しくなったり、社員の自律性を阻害したりします。「〇〇システムを年間100件受注する」といった目標は、目的・ビジョンではなく「目標」として別途設定するべきです。
目指すべきは、社員が「なるほど、だからこの仕事をするのか」「自分のこの行動は、この目的・ビジョンに繋がっているな」と腹落ちできる、適切な抽象度と具体性のバランスです。
目的・ビジョンを社員に「浸透」させる実践ステップ
素晴らしい目的・ビジョンが完成しても、金庫にしまっておいたり、一度だけ全社メールで送ったりするだけでは意味がありません。社員一人ひとりの心に「浸透」させ、日々の行動に繋げることが重要です。
ステップ1:一方的な伝達ではなく、「対話」の場を作る
- 経営者自身が語る: 全体会議や懇親会など、様々な機会を通じて経営者が自らの言葉で目的・ビジョンを語り、それに込めた想いを伝えます。社員からの質問に答え、対話する時間を設けることが重要です。
- 部門単位での話し合い: 各部署で、部門の業務が会社の目的・ビジョンにどう貢献しているか、日々の仕事にどう活かすかを話し合います。マネージャーやリーダーがファシリテーターとなり、社員自身の言葉で語ってもらう場を設けます。
- 1on1でのすり合わせ: 上司と部下の1対1の対話の中で、個人の目標やキャリアが会社の目的・ビジョンとどのように関連するかを話し合います。
ステップ2:多様なツール・機会を活用する
特定のフォーマルな場だけでなく、日々の様々な場面で目的・ビジョンに触れる機会を作ります。
- 社内報や社内SNS: 目的・ビジョンに関連する社員の活動を紹介したり、経営者のコラムを掲載したりします。
- 掲示物やデジタルサイネージ: オフィス内の目につく場所に掲示したり、共有スペースのディスプレイに表示したりします。
- 入社時研修・研修プログラム: 新入社員はもちろん、既存社員向けの研修でも、目的・ビジョンについて学ぶ時間を設けます。
- 評価制度や目標設定への紐づけ: 個人やチームの目標を、会社の目的・ビジョンと連動させることで、日々の業務が「何のため」に行われているのかを意識づけます。
ステップ3:経営者自身が率先して体現する
これが最も重要かつ強力な浸透方法です。経営者自身が、日々の言動や意思決定において、定義した目的・ビジョンに基づいた行動を示すことで、社員は「言葉だけではない」と信頼し、共感します。例えば、「顧客志向」を掲げているのであれば、顧客からの要望に対して真摯に向き合い、迅速に対応する姿勢を自ら示すことが不可欠です。
ステップ4:社員からのフィードバックを受け入れ、継続的に改善する
目的・ビジョンは一度決めたら終わりではありません。社会情勢や事業環境の変化、そして社員の声に合わせて、柔軟に見直し、アップデートしていく姿勢が大切です。社員からの「ビジョンが曖昧で行動に繋がらない」「今のビジョンは実態と合っていないのでは?」といった意見も、貴重な改善のヒントとして受け入れましょう。
目的・ビジョン共有の効果測定と見直し
目的・ビジョン共有がどの程度社員に浸透し、働きがいに影響を与えているのかを把握することも重要です。
測定方法の例
- 社員意識調査(サーベイ): 会社の目的・ビジョンへの理解度、共感度、自身の業務との関連性について設問を設け、定期的に測定します。社員エンゲージメントサーベイの一部として実施することも可能です。
- 定性的な変化の観察: 会議での発言内容(会社の方向性を意識した発言が増えたか)、社員同士の会話、日報や週報の内容などから、目的・ビジョンが日常的に意識されているかを観察します。
- 離職率や採用応募者数の変化: 企業の「志」への共感が広がることで、優秀な人材が集まりやすくなり、定着率も向上する傾向があります。
- 事業成果への影響: 目的・ビジョンへの共感が深まることで、生産性向上や顧客満足度向上など、事業成果にも良い影響が見られるかを確認します。
見直しの時期
定期的なサーベイ結果や、社員からのフィードバック、事業環境の変化などを踏まえ、必要に応じて目的・ビジョンそのものや、浸透のための施策を見直します。少なくとも1年に一度は、全体として目的・ビジョンが機能しているかを確認する機会を設けることをお勧めします。
まとめ:目的・ビジョン共有は働きがい改革の羅針盤
働きがい向上は、単なる福利厚生の改善や制度導入だけでは実現できません。社員一人ひとりが「何のために働くのか」という問いに納得のいく答えを見出し、その仕事が会社の、そして社会の役に立っているという実感を伴うことが不可欠です。
企業の目的・ビジョンは、まさにその「何のため」を示す羅針盤となります。中小企業経営者の皆様が自社の存在意義を深く掘り下げ、社員と共に共感を呼ぶ言葉に紡ぎ、そして日々の行動を通じて浸透させていくプロセスは、社員の主体性やエンゲージメントを高め、働きがいを飛躍的に向上させる確かな一歩となるはずです。
もし、社員の無関心や現場の抵抗に悩んでいらっしゃるのであれば、まずは「何のために会社は存在し、私たちはどこへ向かうのか」という、最も根源的な問いから社員と共に考え始めてみてはいかがでしょうか。その対話自体が、働きがいを高める第一歩となるでしょう。