社員のやる気を引き出す!中小企業経営者が実践すべき目標設定とフィードバックの基本
はじめに
働きがい向上への取り組みは、これからの中小企業にとって避けて通れない重要なテーマです。しかし、いざ始めようとしても、「社員のやる気が感じられない」「現場が無関心でどう巻き込めば良いか分からない」といった課題に直面し、足踏みしてしまう経営者の方もいらっしゃるかもしれません。
働きがいを高める方法は多岐にわたりますが、その中でも社員一人ひとりのモチベーションと主体性を引き出すために、比較的取り組みやすく効果を実感しやすいのが「適切な目標設定」と「効果的なフィードバック」です。
本記事では、中小企業経営者の皆様が、社員のやる気を引き出し、働きがいを育むために実践すべき、目標設定とフィードバックの基本と具体的なステップを解説します。
働きがいとモチベーションはなぜ重要か
働きがいとは、単に給料が高い、福利厚生が充実しているといった条件だけでなく、「自分の仕事に意義を感じる」「成長を実感できる」「チームに貢献できている」といった内発的な満足感や充実感を指します。この働きがいが高まると、社員のモチベーション向上に繋がり、結果として生産性の向上、離職率の低下、優秀な人材の定着といった経営課題の解決に大きく貢献します。
特に中小企業においては、一人ひとりの社員が会社全体の動きに与える影響が大きく、個々のモチベーションが高い状態が、組織全体の活力に直結します。社員が「やらされ仕事」ではなく、「自ら取り組む仕事」として捉えられるような環境を作ることが、働きがい向上の第一歩と言えるでしょう。
社員の主体性を引き出す「目標設定」の基本
働きがいとモチベーションを高めるための具体的な施策として、まず見直したいのが「目標設定」です。単に会社から与えられたノルマを追うのではなく、社員自身が納得し、達成に向けて主体的に取り組める目標を設定することが重要です。
1. 会社全体の目標を共有する
個人の目標設定の前に、会社として目指す方向性や目標(ビジョン、ミッション、事業計画など)を明確に共有しましょう。社員が自分の仕事が会社のどの目標に繋がっているのかを理解することで、自分の役割の重要性を認識しやすくなります。
2. 目標は「上から与える」だけでなく「対話を通じて決める」
一方的に目標を指示するのではなく、社員と対話しながら目標を設定します。社員のこれまでの実績や能力、キャリアプランなどを考慮しつつ、本人にとって「少し頑張れば達成できそう」と感じられる、挑戦的かつ現実的な目標を共に設定しましょう。このプロセスを通じて、社員は目標に対する納得感やオーナーシップを持つことができます。
3. SMART原則を意識する
目標設定の手法として広く知られているのがSMART原則です。中小企業でも非常に有効です。
- S (Specific): 具体的に何を、どうするのか?
- M (Measurable): どうなれば達成なのか?(測定可能か)
- A (Achievable): 達成可能なレベルか?
- R (Relevant): 会社の目標や本人の役割に関連しているか?
- T (Time-bound): いつまでに達成するのか?(期限は明確か)
曖昧な目標ではなく、上記の要素を満たすことで、社員は目標達成に向けた具体的な行動をイメージしやすくなります。
目標設定の実践ステップ例(中小企業向け)
- 会社目標の共有: 全体朝礼や社内会議で、今期の会社目標や重点施策を分かりやすく説明します。
- 個人目標の検討(社員自身): 社員自身に、会社目標を踏まえ、自分の役割で達成すべきことや、挑戦したいことを考えさせます。
- 上司との個別面談: 上司(経営者や部署責任者)が社員一人ひとりと面談し、社員が考えた目標案について対話します。目標の具体性、測定可能性、会社目標との連携などを確認し、必要に応じて調整します。
- 目標の確定と共有: 合意した目標を文書化し、社員、上司双方で共有します。
このプロセスで重要なのは、社員が「自分の目標」として捉えられるように、しっかりと時間をかけて対話することです。
成長を促し信頼を築く「フィードバック」の実践
目標設定とセットで不可欠なのが「フィードバック」です。フィードバックは、社員の行動や成果に対して、具体的な情報や評価を伝えることで、成長を促し、関係性を構築するための重要なコミュニケーションです。しかし、単なる「ダメ出し」や「褒めるだけ」では効果はありません。
1. 定期的な「1on1ミーティング」を導入する
フィードバックは、評価面談のような形式的な場だけでなく、日々のコミュニケーションの中で行うことが理想です。特におすすめなのが、上司と部下が1対1で定期的に行う「1on1ミーティング」です。週に一度、15分〜30分程度でも構いません。ここでは、業務の進捗確認だけでなく、目標達成に向けた課題、困っていること、本人のキャリアに関する考えなどをざっくばらんに話せる場とします。
2. 具体的な行動や事実に焦点を当てる
フィードバックは、相手の人格や抽象的な評価ではなく、特定の行動や事実に基づいて行います。「いつも頑張っているね」だけでなく、「〇〇プロジェクトの資料作成で、期限内に質の高いアウトプットを出してくれてありがとう。特に△△の部分は分かりやすかったよ」のように、具体的に何を評価しているのかを明確に伝えます。改善を求める場合も、「もっと主体的に動け」ではなく、「先日の会議で、□□についてあなたの専門知識を活かした提案があれば、より議論が深まったと思う。次はぜひ積極的に意見を出してみてくれる?」のように、具体的な行動に焦点を当て、期待する行動を示すと良いでしょう。
3. ポジティブとネガティブのバランス
成長を促すためには、良かった点(ポジティブフィードバック)と改善点(ネガティブフィードバック、または成長を促すフィードバック)の両方を伝える必要があります。ただし、改善点を伝える際は、相手を否定するような言い方にならないよう配慮し、「〇〇の点を△△のように改善すると、さらに□□という良い結果に繋がると思うよ」のように、未来に向けた建設的な伝え方を心がけましょう。
4. 傾聴の姿勢を持つ
フィードバックは一方的に話す場ではありません。社員が自分の考えや状況を話す時間を十分に設け、真摯に耳を傾けましょう。社員の言葉の背景にある想いや課題を理解しようとする姿勢が、信頼関係を築き、フィードバックの効果を高めます。
フィードバックの実践ステップ例(中小企業向け)
- 定期的な1on1のスケジュール設定: 毎週または隔週など、無理のない頻度で定期的な1on1の時間を確保し、社員に伝えます。
- フィードバックの準備: 話し合う目標や業務の進捗、社員の具体的な行動について、良かった点や改善を促したい点を事前に整理しておきます。
- 1on1の実施:
- 冒頭でアイスブレイクを行い、リラックスした雰囲気を作ります。
- 社員から現在の状況や課題について話を聞きます(傾聴)。
- 整理したフィードバックを具体的に伝えます。ポジティブな点から伝えるのが一般的です。
- フィードバックについて社員の考えや意見を聞きます。
- 今後のアクション(次に何をすれば良いか)を一緒に確認します。
- 記録と次回への活用: 話し合った内容や決定事項を簡単に記録しておき、次回の1on1や目標の進捗確認に活用します。
目標設定とフィードバックを組み合わせる効果
目標設定で社員の進むべき方向を明確にし、フィードバックでその進捗をサポートし、成長を促す。この二つは車の両輪のように機能します。
- モチベーション向上: 目標達成に向けた進捗を定期的にフィードバックされることで、社員は自身の成長や貢献を実感しやすくなり、モチベーションが維持・向上します。
- 主体性の促進: 一方的な指示ではなく、対話を通じて目標を設定し、フィードバックを受け取ることで、社員は「自分事」として業務に取り組む主体性が育まれます。
- 信頼関係の構築: 定期的な対話の機会を持つことで、上司と部下、あるいは経営者と社員間のコミュニケーションが活性化し、信頼関係が深まります。これにより、現場の抵抗や無関心を和らげる効果も期待できます。
- 早期の課題発見: 定期的なフィードバックの機会を設けることで、業務上の課題や社員が抱える問題を早期に発見し、対策を講じることが可能になります。
中小企業での導入を成功させるためのポイント
- 完璧を目指さない: 最初から洗練された制度を導入しようとせず、まずはできることからスモールスタートで始めてみましょう。例えば、まずは特定の部署やチームで試行的に導入してみるのも良い方法です。
- 経営者自身が実践する: 経営者自身が社員に対して率先して目標設定の対話やフィードバックを行う姿勢を示すことが何よりも重要です。
- 形式化させない: 形式的な面談時間になってしまわないよう、社員が本音で話せる雰囲気づくりを心がけましょう。
- 根気強く続ける: 効果がすぐに現れなくても、諦めずに継続することが大切です。繰り返すうちに、対話の質は必ず向上していきます。
- 社員の意見を取り入れる: 導入してみて改善点があれば、社員からのフィードバックも積極的に取り入れ、やり方を調整していく柔軟性も必要です。
まとめ
働きがい向上への取り組みは、一朝一夕に完了するものではありません。しかし、今回ご紹介した「目標設定」と「フィードバック」は、社員一人ひとりのモチベーションと主体性を高め、組織全体の働きがいを育むための強力なツールです。
特に中小企業においては、経営者や管理職と社員との距離が近いという利点を活かし、丁寧な対話を通じてこれらの取り組みを進めることが可能です。
「現場のやる気が出ない」「どうせやっても無駄だと思われているのでは」と悩んでいる経営者の皆様、まずは社員との「対話」の機会を意識的に増やし、一人ひとりの目標設定に寄り添い、日々の具体的なフィードバックを実践してみてはいかがでしょうか。
この小さな一歩が、社員の働きがいを高め、ひいては会社全体の成長に繋がるはずです。ぜひ、できることから実践を始めてみてください。